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和歌山地方裁判所 平成6年(わ)430号 判決

本籍

和歌山市畑屋敷兵庫ノ丁六番地の一

住居

同市畑屋敷兵庫ノ丁一〇番地

会社役員

大和久誠

昭和一八年三月四日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官宮﨑昭出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金三〇〇〇万円に処する。

右罰金の全部またはその一部を納めることができないときは、金五万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、和歌山市畑屋敷兵庫ノ丁一〇番地に居住し、喫茶・マージャン店及びカラオケボックスの経営並びにゲーム機等のリース業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て

第一  平成二年分の総所得金額が一億〇七〇四万二五五九円でこれに対する所得税額が四八九六万七五〇〇円であるのに、売上の一部を除外するなどして所得の一部を秘匿したうえ、平成三年三月一二日、和歌山市湊通丁北一丁目一番地所在の所轄和歌山税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が三八四万五〇〇〇円でこれに対する所得税額が二五万四一〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同年分の所得税額四八七一万三四〇〇円を免れた。

第二  平成三年分の総所得金額が八七四三万八三一七円でこれに対する所得税額が三八九四万五一〇〇円であるのに、前同様の手段により所得の一部を秘匿したうえ、平成四年三月六日、前記所轄和歌山税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が四〇九万五〇〇〇円でこれに対する所得税額が二七万九一六五円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同年分の所得税額三八六六万五九三五円を免れた

第三  平成四年分の総所得金額が九六四八万四八八四円でこれに対する所得税額が四三六三万八五〇〇円であるのに、前同様の手段により所得の一部を秘匿したうえ、平成五年三月八日、前記所轄和歌山税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が四八九万五〇〇〇円でこれに対する所得税額が三二万七四〇〇円(但し、申告書上は誤って三二万五一〇〇円と記載)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同年分の所得税額四三三一万一一〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示各事実について、被告人の当公判廷における供述のほか、記録中の証拠等関係カード(検察官請求分)甲乙に記載の次の番号の各証拠

判示第一の事実について

甲2、5、8、ないし16、18、19、21ないし37、40、42、乙2ないし6、8

判示第二の事実について

甲3、6、8ないし16、18ないし38、40ないし42、乙2ないし6、8

判示第三の事実について

甲4、7ないし28、30ないし37、39ないし42、乙2ないし6、8

(法令の適用)

罰条 いずれも所得税法二三八条一項、二項

刑種の選択 いずれも懲役と罰金を併科

併合罪の処理 刑法四五条前段

懲役刑について 刑法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重)

罰金刑について 刑法四八条二項(各罪所定の罰金額を合算)

宣告刑 懲役一年六月及び罰金三〇〇〇万円

労役場留置 刑法一八条(金五万円を一日に換算)

懲役刑の執行猶予 刑法二五条一項(四年間)

(量刑の事情)

本件は、被告人が三年度にわたり事業所得の大部分を除外して確定申告し、自己の所得税合計一億三〇六九万円余を脱税したという事犯である。

本件脱税額は非常に多額であること、ほ脱率は各年度とも九九パーセントを超えており、被告人はその納付すべき所得税のほとんどを脱税していたものであること、被告人の所得の相当部分は賭博ゲーム機による売上からなる違法所得であること、被告人はこれらを借名や仮名普通預金口座に分散入金し、あるいは借名や仮名を用いて定期預金とするなど所得隠匿工作をしていたことなどを考え併せると、犯情は悪く、被告人の刑事責任は重いといわざるをえない。

しかしながら、被告人も現在では本件を反省して事実を素直に認め、各年度についていずれも修正申告をし、脱税した本税分については既に全額納付をすませ、重加算税等についても約束手形により分割納税をすることになっていること、被告人は自己の事業を法人化し、今後の税務申告については適正になされるように準備していること、被告人は昭和五八年に暴力行為等処罰に関する法律違反罪等により懲役二年、四年間刑執行猶予、保護観察付の判決の宣告を受けたことがあるものの、右執行猶予を取り消されることなくその期間を経過しており、その外には禁錮以上の刑に処せられた前科はないこと、また被告人はかつて暴力団組織に所属していたが、今後は暴力団との関係を断ち、きちんとした事業家として再出発しようと決意していることなどの、被告人のために酌むべき事情もあるので、今回は懲役刑についてはその刑の執行を猶予することとする。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 森岡安廣)

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